
案件業務で痛感した「メモ」の重要性と、私が実践している記録の工夫
仕事論目次
1. はじめに
「あの件どうなった?」
上司やチームメンバーにそう聞かれて、血の気が引いた経験はありませんか?
仕様の細かいニュアンスを忘れるくらいなら、まだ確認すれば済みます。しかし、一番恐ろしいのは、「頼まれていたタスクそのものを完全に忘れてしまい、注意される」 こと。
「これくらい覚えられるだろう」 「あとでやろう」
そんな軽い気持ちで頭の中に留めておいたタスクは、忙しさに紛れて驚くほど簡単に消え去ります。そして、期限ギリギリ(あるいは過ぎた後)に指摘されて初めて思い出し、謝罪することになるのです。これは、過去の私が実際にやってしまった失敗です。
案件業務では、複数のタスクやプロジェクトが同時並行で進むのが当たり前です。次から次へと入ってくる情報を、自分の記憶力だけで管理するのは不可能です。
メモは単なる「備忘録」ではありません。ミスを防ぎ、自分の信用を守るための重要な「スキル」です。
本記事では、数々の失敗を経て痛感したメモの重要性と、現在私が実践している「自分を助けるための記録の工夫」について紹介します。
2. 案件業務において「メモ不足」が招く3つの悲劇
「たかがメモ、されどメモ」と言いますが、実際の業務においてメモを取らない代償は、単に「忘れる」ことだけではありません。
過去の私がそうだったように、記録を怠ることで発生するトラブルは、自分自身の精神を削り、周囲からの評価を確実に下げていきます。私が実際に直面し、痛感した「3つの悲劇」をご紹介します。
① 相手の指示を聞き逃し、後から指摘されて青ざめる
会議や打ち合わせでは、メインの話題以外にも、細かい条件や補足事項が口頭で伝えられることがよくあります。
メモを取らずに話を聞いていると、無意識のうちに自分の中で「重要だ」と判断した内容しか頭に残りません。その結果、相手が会話の中で伝えた(でも実は重要な)指示が、右から左へと抜け落ちてしまうのです。
恐ろしいのは、その場では「理解したつもり」でいることです。
後日、相手から「あの時にお願いした件、どうなりましたか?」と聞かれて初めて、自分の記憶に全くないことに気づきます。「そんな指示ありましたっけ?」と聞き返すこともできません。単に自分が聞き逃していただけだからです。
メモという記録がないため、自分の聞き漏らしをチェックすることもできず、結果として「指示を守れない人」になってしまいます。
② 手戻りによる「時間の浪費」と「絶望感」
作業の途中でふと、「あれ、この条件ってAだっけ? Bだっけ?」と迷う瞬間があります。
ここでメモがあれば一瞬で解決しますが、記憶が曖昧だと確認に時間がかかります。最悪なのは、「たしかAだったはず」という思い込みで進めてしまい、完了間際でそれが間違いだったと発覚することです。
積み上げた作業がゼロになる徒労感。 迫りくる納期へのプレッシャー。
「あの時、たった一行メモしておけば…」という後悔は、何度味わっても慣れるものではありません。数分のメモを惜しんだせいで、数日分の工数が消し飛ぶこともあるのです。
③ 「あの人は話を聞いていない」という信用の失墜
タスクを忘れたり、同じことを何度も質問したりしていると、相手はどう思うでしょうか。
「忙しいのかな」と好意的に解釈してくれるのは最初だけです。それが続けば、「この人は人の話を大事にしていない」「仕事を任せても大丈夫か?」という不信感に変わります。
自分では「うっかり忘れただけ」と思っていても、相手にとっては「軽視された」と感じるものです。
メモを取るという行為は、単なる記録だけでなく「あなたの話を真剣に聞いています」という姿勢のアピールでもあります。逆に言えば、メモ不足は「プロとしての信頼」を自ら捨てているのと同じことだったと、今になって痛感しています。
3. 失敗から学んだ「ダメなメモ」と「使えるメモ」
痛い失敗を繰り返して気づいたのは、「ただ書いてあればいいわけではない」という残酷な事実でした。
かつての私は、メモを取っているつもりになって、実は「後で見返しても役に立たない文字の羅列」を生産していただけだったのです。私が量産していた「ダメなメモ」と、そこから改善してたどり着いた「使えるメモ」の違いをご紹介します。
ダメなメモ:一番重要な「タスク情報」が欠落している
過去のノートを見返すと、メモの分量は多いのに、肝心な部分がスっぽりと抜けているという特徴がありました。特に、上司から「メモを取れ」と何度指摘されても改善しなかった頃の私は、以下のようなミスを繰り返していました。
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「ついで頼まれ」のタスクこそ、自分への指示を省いてしまいがちです。自分の作業に関連して「Git更新するついでに、Dev環境のスタイルも見ておいて。問題なければTeamsで連絡して」と頼まれたことがありました。 私は「見るだけならすぐ終わる」と油断し、メモを省略してしまったのです。 結果、チェック作業自体は終わらせたものの、「Teamsで連絡する」という完了アクションを完全に失念。夕方に上司から「あれどうなった?」と聞かれて初めて青ざめました。 しかも、慌ててメモを見返しても「Dev環境見る」としか書いておらず、「具体的に何を報告すべきだったか」さえ思い出せない始末。結局、確認したはずの内容をもう一度調べ直し、冷や汗をかきながら報告しました。
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「誰がやるか」が明記されておらず、ボールが落ちる他社の方と協業していた案件でのことです。「~を確認する」といったタスクが発生した際、メモに主語(担当者)を書きませんでした。 心のどこかで「向こうがやってくれるだろう」と思っていたのですが、実際は相手も同じことを思っており、見事な「お見合い」が発生。 期限ギリギリで誰も着手していないことが発覚し、上司から「なんで確認していないの?」と指摘を受けました。その尻拭いで確認作業に追われ、本来やるべき自分のメインタスクが遅れるという悪循環に陥りました。
使えるメモ:「未来の自分」への指示書になっている
一方、現在意識している「使えるメモ」は、書き方を変えるというより、書く目的を変えました。「会話の記録」ではなく、「未来の自分(やチーム)を動かすための情報」を残すのです。
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「事実」と「ネクストアクション」を明確に分けます。 話のプロセスそのものよりも、「何が決まったのか(決定事項)」と「次に誰が何をすべきか(ToDo)」を区別することが重要です。特にToDoには、必ず担当者と期限をセットにします。これさえあれば、とりあえず仕事は進みます。
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人間の記憶は翌日には半分以上消えています。「アレを確認」のような、その場のノリで書いた自分にしか通じない略語はやめました。1週間後、記憶が完全にリセットされた状態の自分が読んでも、「ああ、こういう経緯でこれが必要になったのね」と一瞬で状況を思い出せるだけの情報量(背景や理由)を含めるようにしています。
4. 私が実践している「記録の工夫」3選
数々の失敗を経て、現在私がたどり着いたメモのスタイルは非常にシンプルです。「綺麗に書こう」「要点をまとめよう」という意識を捨て、以下の3ステップを徹底しています。
① 会議や上司からの指示は「選ばず」すべて殴り書きする
以前は「重要なことだけメモしよう」としていました。しかし、会議中や上司から急な依頼を受けている最中に、何が重要かをその場で判断しようとすると、脳の処理が追いつかず、結果として話を聞き逃してしまいます。
今は、「情報の取捨選択」を一切しません。会議での発言はもちろん、上司からのフィードバックや口頭での依頼も、聞いた内容をそのまま、すべてログとして残す勢いで殴り書きします。
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「これは書かなくていいかな?」と迷う時間があったら書く。
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決定事項だけでなく、そこに至る議論の過程や、上司が発した細かいニュアンスも残す。
「判断」と「記録」を分けることで、その場は「聞くこと」と「手を動かすこと」だけに集中できるようになりました。
② 直後に「やるべきこと」をToDoリストへ抽出する
話が終わった段階では、手元には大量のテキスト(殴り書き)が残ります。これはあくまで「ログ」であり、そのままでは仕事に使えません。
そこで、直後に必ず「自分のやるべきこと」をピックアップし、ToDoリストとして別枠でまとめ直します。膨大なログの中から、自分がボールを持っているタスクを救出する作業です。
③ ToDoには「概要・やること・進捗」の3点セットを書く
抽出したToDoリストには、タスク名だけでなく、必ず以下の3つの項目をセットで記載します。
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概要: 「何のためのタスクか」「背景は何か」。数日後の自分が忘れてもいいように文脈を残します。
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やること: 具体的なアクション。「資料作成」ではなく「構成案を箇条書きで作る」「〇〇さんに数値をチャットで聞く」など、行動レベルまで落とし込みます。
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進捗: ここが一番重要です。「未着手」「作成中」だけでなく、「〇〇さん返信待ち」「××の件でペンディング」など、今どういうステータスなのかを常に更新して記載します。
この3つが揃って初めて、「生きたタスク」として管理できるようになります。
5. メモ習慣が変えた仕事の質
「全量メモ」と「詳細なToDo管理」に変えてから、仕事の進め方は劇的に改善しました。
「聞き漏らし」の恐怖からの解放
「全部書いてある」という事実は、精神的に大きな安心感をもたらします。 以前は上司の話を聞きながら「今の指示、忘れそうだな…」と不安でしたが、今はログを見返せば必ずどこかに書いてあります。「判断」を後回しにすることで、プレッシャーがなくなり、落ち着いて会話に集中できるようになりました。
タスクの「塩漬け(放置)」がなくなった
ToDoに「進捗」欄を作ったことで、タスクが停滞するのを防げるようになりました。 単なるリストだと、着手しにくいタスクはずっと残り続け、風景化してしまいます。しかし「進捗」を書くルールにすると、「Aさんの確認待ちで止まっている」など、止まっている理由を言語化せざるを得ません。 これにより、次に打つべき手(リマインドするなど)が明確になり、タスクを完了まで確実に運べるようになりました。
6. おわりに
かつての私にとって、メモは「言われたことを書き写すだけの事務作業」でした。しかし、痛い失敗を経て、今は「未来の自分への指示書」だと捉えています。
記憶は嘘をつきますが、記録は嘘をつきません。 過去の自分ごときが覚えているだろうという過信を捨て、泥臭く記録に残すことが、結果として最短で仕事を終わらせる近道になります。
もし、この記事を読んで「明日から意識してみようかな」と思っていただけたなら、まずは一つだけ、「タスクの完了条件(どうなったら終わりか)」をメモすることから始めてみてください。
たった一行のメモが、未来のあなたを救ってくれるはずです。
澁谷 悠真
エンジニア
初めまして、澁谷と申します。 2025年8月からUHDで働き始め、現在は案件メンバーとして主に設計フェーズを担当し、上流工程に関わっています。