
シンプルルールで仕事と生活を効率化する

目次
はじめに
最近ドナルド・サルの『シンプルルール』を読み、自分のエンジニアとしての働き方――特に日々のチャット業務や機能実装、機能改善の場面――を振り返りました。「ルールをどう設けるか」が生産性に直結していると強く感じています。
本記事では、シンプルルールの考え方と具体的な事例を紹介しながら、私たちの仕事や生活にどう活かせるかを整理してみます。
1. ルールは何のためにあるのか
ルールの役割は「迷わず判断できるようにすること」です。
特に緊急時や情報不足のとき、人間は冷静な判断を下すのが難しい。そこでルールがあると、余計な脳のリソースを使わずに行動できます。
しかし世の中には「複雑で大量のルール」があふれています。行政や大企業では、ルールを増やすことそのものに安心感を覚えてしまい、結果として現場の効率を下げてしまうことも多いです。
本当に効果を発揮するのは、シンプルで、数が少なく、使いやすいルールです。
2. シンプルルールの特徴
シンプルルールには共通の特徴があります。
-
ルールの数が少ない
単純だからこそ優先事項に集中できる、覚えやすく忘れにくい。 -
使う人に合わせてカスタマイズできる
チームの文化や個人の性格に合わせて調整できるので、現場ごと・人ごとに実際に使いやすいルールに仕立てやすい。 -
具体的である
行動に直結するため迷いが減り、すぐ実践できる。 -
柔軟性がある
環境や状況が変化しても適用でき、長期間にわたり効果を発揮する。
これらの特徴が、複雑な状況でも迷わずに行動できるポイントです。
3. シンプルルールの力(代表事例)
3-1 医療現場:トリアージ(具体ルール)
医療現場で使われる「トリアージ」(選別)は、シンプルルールの代表例です。
患者を4色(赤・黄・緑・黒)に分けるだけで、治療の優先順位を即座に決められます。これにより死亡率が大幅に下がった(従来より有意に低下した)と報告されています。
【判定に使う3条件】
- 指示に従えるか(意識・理解の可否)
- 脈拍数が毎分120未満か
- 呼吸数が毎分10〜30回未満か
【4色タグへの振り分け】
- 緑(軽症): 上記3条件をすべて満たす
- 黄(待機可): 上記3条件のうち2つを満たす
- 赤(最優先): 上記3条件のうち1つのみ満たす、または全て満たさないが迅速対応が必要と判断される場合
- 黒(死亡/期待困難): 3条件を全て満たさず、明らかな生命徴候の消失や救命困難と判断される場合
3-2 自然界:鳥の群れ(Boidsの3ルール)
鳥の大群にリーダーはいませんが、極めて複雑な群れの動きが観察されます。これはコンピューターグラフィックス研究者のクレイグ・レイノルズ(Craig Reynolds)が提案した「Boidsモデル」により、以下の3つのシンプルルールで説明できます。
- 近づきすぎない(Separation): 隣の個体に接近しすぎたら離れる
- 離れすぎない(Cohesion): 近隣の平均位置へゆるやかに戻る
- 動きを合わせる(Alignment): 近隣の平均的な進行方向・速度に合わせる
この3つだけで、衝突回避・群れの維持・方向転換といった複雑な集団挙動が自然に生まれます。まさに「少数の明快なルールが、全体の秩序をつくる」好例です。
3-3 ビジネス:Zipcar(6つのルール)
Zipcar(カーシェア)
会員同士がお互い気持ちよく車を利用できるように、次の6つのルールを掲げています。
- 破損した場合は電話する
- ゴミは持ち帰り、きれいに使用する
- 車内禁煙
- ガソリンが4分の1以下になったら補充する
- 時間通りに車を元の場所に戻す
- ペットはキャリーケースに入れる
→ 6つのシンプル・イズ・ベストなルールで、利用しやすさと運営効率を両立。
3-4 日常生活:ダイエット
- 「お皿は直径15cm以内」
このルールだけで1ヶ月に約1kgの減量が実現。
4. シンプルルールの作り方
本書では、シンプルルールを設計するための3つの手順が示されています。
1. 利益の針をはっきりさせる
- 顧客が払いたいと思う価格と製造コストの差に利益がある。そこに集中する。「誰に、何を、どのように届けるのか」を明確にする。
- 例:カフェを経営しているなら「お客さんがまた来たいと思う満足度」を利益の針とする。よく考えると料理の味ではなく、提供スピードや雰囲気などがその針を動かす要素になり得ます。
2. ボトルネックを明確にする
- 成果を妨げている最大の要因を特定します。
- 例:開発チームでリリースが遅れているなら、原因は「コードレビューが滞っている」かもしれない。この場合はレビューのやり方や優先度に関するルールを決めるのが効果的です。
3. ルールを洗練する
- ルールは作って終わりではない。使ってみて効果を検証し、無駄なものを削ぎ落としていく必要がある。
- 例:最初に「会議は30分以内」と決めたが、実際には15分で十分なケースが多ければ「会議は15分以内」に更新する。
ルールのタイプ (下記のタイプに当てはめるとルールを考えやすい)
- 境界ルール:どこまでが対象か線引きする(例:AIに関係ない事業はやらない)
- 優先順位ルール:どれを先に処理するか決める(例:緊急度が高いタスクを先に)
- How-toルール:具体的な手順を示す(例:チャット返信は3行以内で)
- タイミングルール:いつ行うかを決める(例:45分作業ごとに5分休憩を取る)
5. エンジニア業務への応用(私のルール)
私の業務はチャットでのやり取りが中心です。日常と業務の双方で、判断と行動を素早くするために次のルールを運用しています。
日常ルール
- 出社したら筋トレをする (健康、脳のパフォーマンスの維持)
- 朝の筋トレが終わったらウォーターサーバーに水を注ぐ (水の入れ替えの意味合い。朝汲んでおくとだいたい1日はなくならない。)
- 45分ごとに3分の休憩を取る(こまめな休憩で疲労を抑え、集中力を維持)
業務ルール
- 質問の回答を先頭に書く(結論ファースト)
- その後に説明・理由を簡潔に添える
- 頼みごとをする際は必ず絵文字を1つ入れる(親しみを込める)
なお、以下は採用や事業に関する提案(例)です。
採用ルール(例)
- 社員の友人の場合は優先的に検討する
- 必ず何かしらのAIツールを使っていることを条件にする
事業判断(例)
- AIに対する技術力をアピールできる事業に関しては率先的に進める
- 自分が使いたいと思わないものはやらない
- 最悪の場合でもメリットが得られるものだけを進める
6. 注意点
もちろんシンプルルールは万能ではありません。
注意点を押さえておく必要があります。
- 数を増やしすぎると本末転倒になる
- 常にルールの数を少なく保ち、最優先事項以外は削ぎ落とす必要がある
- 状況によっては複雑なルールのほうが有効(例:マクドナルドのチェーン展開。質の高さより、全店舗で同じものを提供する必要がある。)
「いつシンプルにするか」「いつ複雑さを許容するか」を見極めることが大切です。
うまくいかないルールの例
- ルールの量が多すぎる(数十項目のチェックを常時要求)
- 曖昧で主観的(何がOK/NGか解釈が分かれる。質の高いものを作る。有能な社員を採用する etc…)
- トップダウンのルール設計(使用者が納得感が無くなり、実用性に欠ける場合が多い)
- 罰則だけ強く、動機づけや裁量がない(萎縮・形骸化)
- 目的・指標との紐づけがない(何のためのルールか不明)
まとめ
- ルールは複雑よりもシンプルが効果的
- 医療・自然界・ビジネス・日常生活でも成果を上げている
- 本当に重要なルールを 5~6以内 に絞ることが鍵
- 仕事や生活の「迷う瞬間」にシンプルルールを導入してみよう
- 特にプレッシャーや不安が多い状況では、冷静な判断ができないのでシンプルルールが効果を発揮する
- ルールをシンプルにすることは複雑にすることより難しい。使いながら洗練していく。
まずは小さな一歩として、あなた自身の生活や仕事で「迷いやすい場面」を一つ選び、そこにルールを一つ決めてみてください。

Nozomi Tomita
エンジニア
はじめまして、冨田希望と申します。 前職はフリーターで、ほぼ未経験で入社しました。若干不安な気持ちもありますが、開発や障害修正を行う案件に携わっています。