シンプルルールで仕事と生活を効率化する

シンプルルールで仕事と生活を効率化する

冨田希望
冨田希望公開日:2025/10/012分

目次

はじめに

最近ドナルド・サルの『シンプルルール』を読み、自分のエンジニアとしての働き方――特に日々のチャット業務や機能実装、機能改善の場面――を振り返りました。「ルールをどう設けるか」が生産性に直結していると強く感じています。

本記事では、シンプルルールの考え方と具体的な事例を紹介しながら、私たちの仕事や生活にどう活かせるかを整理してみます。


1. ルールは何のためにあるのか

ルールの役割は「迷わず判断できるようにすること」です。

特に緊急時や情報不足のとき、人間は冷静な判断を下すのが難しい。そこでルールがあると、余計な脳のリソースを使わずに行動できます。

しかし世の中には「複雑で大量のルール」があふれています。行政や大企業では、ルールを増やすことそのものに安心感を覚えてしまい、結果として現場の効率を下げてしまうことも多いです。

本当に効果を発揮するのは、シンプルで、数が少なく、使いやすいルールです。


2. シンプルルールの特徴

シンプルルールには共通の特徴があります。

  • ルールの数が少ない
    単純だからこそ優先事項に集中できる、覚えやすく忘れにくい。

  • 使う人に合わせてカスタマイズできる
    チームの文化や個人の性格に合わせて調整できるので、現場ごと・人ごとに実際に使いやすいルールに仕立てやすい。

  • 具体的である
    行動に直結するため迷いが減り、すぐ実践できる。

  • 柔軟性がある
    環境や状況が変化しても適用でき、長期間にわたり効果を発揮する。

これらの特徴が、複雑な状況でも迷わずに行動できるポイントです。


3. シンプルルールの力(代表事例)

3-1 医療現場:トリアージ(具体ルール)

医療現場で使われる「トリアージ」(選別)は、シンプルルールの代表例です。

患者を4色(赤・黄・緑・黒)に分けるだけで、治療の優先順位を即座に決められます。これにより死亡率が大幅に下がった(従来より有意に低下した)と報告されています。

【判定に使う3条件】

  1. 指示に従えるか(意識・理解の可否)
  2. 脈拍数が毎分120未満か
  3. 呼吸数が毎分10〜30回未満か

【4色タグへの振り分け】

  • 緑(軽症): 上記3条件をすべて満たす
  • 黄(待機可): 上記3条件のうち2つを満たす
  • 赤(最優先): 上記3条件のうち1つのみ満たす、または全て満たさないが迅速対応が必要と判断される場合
  • 黒(死亡/期待困難): 3条件を全て満たさず、明らかな生命徴候の消失や救命困難と判断される場合

3-2 自然界:鳥の群れ(Boidsの3ルール)

鳥の大群にリーダーはいませんが、極めて複雑な群れの動きが観察されます。これはコンピューターグラフィックス研究者のクレイグ・レイノルズ(Craig Reynolds)が提案した「Boidsモデル」により、以下の3つのシンプルルールで説明できます。

  1. 近づきすぎない(Separation): 隣の個体に接近しすぎたら離れる
  2. 離れすぎない(Cohesion): 近隣の平均位置へゆるやかに戻る
  3. 動きを合わせる(Alignment): 近隣の平均的な進行方向・速度に合わせる

この3つだけで、衝突回避・群れの維持・方向転換といった複雑な集団挙動が自然に生まれます。まさに「少数の明快なルールが、全体の秩序をつくる」好例です。

3-3 ビジネス:Zipcar(6つのルール)

Zipcar(カーシェア)
会員同士がお互い気持ちよく車を利用できるように、次の6つのルールを掲げています。

  1. 破損した場合は電話する
  2. ゴミは持ち帰り、きれいに使用する
  3. 車内禁煙
  4. ガソリンが4分の1以下になったら補充する
  5. 時間通りに車を元の場所に戻す
  6. ペットはキャリーケースに入れる
    → 6つのシンプル・イズ・ベストなルールで、利用しやすさと運営効率を両立。

3-4 日常生活:ダイエット

  • 「お皿は直径15cm以内」

このルールだけで1ヶ月に約1kgの減量が実現。


4. シンプルルールの作り方

本書では、シンプルルールを設計するための3つの手順が示されています。

1. 利益の針をはっきりさせる

  • 顧客が払いたいと思う価格と製造コストの差に利益がある。そこに集中する。「誰に、何を、どのように届けるのか」を明確にする。
  • 例:カフェを経営しているなら「お客さんがまた来たいと思う満足度」を利益の針とする。よく考えると料理の味ではなく、提供スピードや雰囲気などがその針を動かす要素になり得ます。

2. ボトルネックを明確にする

  • 成果を妨げている最大の要因を特定します。
  • 例:開発チームでリリースが遅れているなら、原因は「コードレビューが滞っている」かもしれない。この場合はレビューのやり方や優先度に関するルールを決めるのが効果的です。

3. ルールを洗練する

  • ルールは作って終わりではない。使ってみて効果を検証し、無駄なものを削ぎ落としていく必要がある。
  • 例:最初に「会議は30分以内」と決めたが、実際には15分で十分なケースが多ければ「会議は15分以内」に更新する。

ルールのタイプ (下記のタイプに当てはめるとルールを考えやすい)

  • 境界ルール:どこまでが対象か線引きする(例:AIに関係ない事業はやらない)
  • 優先順位ルール:どれを先に処理するか決める(例:緊急度が高いタスクを先に)
  • How-toルール:具体的な手順を示す(例:チャット返信は3行以内で)
  • タイミングルール:いつ行うかを決める(例:45分作業ごとに5分休憩を取る)

5. エンジニア業務への応用(私のルール)

私の業務はチャットでのやり取りが中心です。日常と業務の双方で、判断と行動を素早くするために次のルールを運用しています。

日常ルール

  • 出社したら筋トレをする (健康、脳のパフォーマンスの維持)
  • 朝の筋トレが終わったらウォーターサーバーに水を注ぐ (水の入れ替えの意味合い。朝汲んでおくとだいたい1日はなくならない。)
  • 45分ごとに3分の休憩を取る(こまめな休憩で疲労を抑え、集中力を維持)

業務ルール

  • 質問の回答を先頭に書く(結論ファースト)
  • その後に説明・理由を簡潔に添える
  • 頼みごとをする際は必ず絵文字を1つ入れる(親しみを込める)

なお、以下は採用や事業に関する提案(例)です。

採用ルール(例)

  • 社員の友人の場合は優先的に検討する
  • 必ず何かしらのAIツールを使っていることを条件にする

事業判断(例)

  • AIに対する技術力をアピールできる事業に関しては率先的に進める
  • 自分が使いたいと思わないものはやらない
  • 最悪の場合でもメリットが得られるものだけを進める

6. 注意点

もちろんシンプルルールは万能ではありません。
注意点を押さえておく必要があります。

  • 数を増やしすぎると本末転倒になる
  • 常にルールの数を少なく保ち、最優先事項以外は削ぎ落とす必要がある
  • 状況によっては複雑なルールのほうが有効(例:マクドナルドのチェーン展開。質の高さより、全店舗で同じものを提供する必要がある。)

「いつシンプルにするか」「いつ複雑さを許容するか」を見極めることが大切です。

うまくいかないルールの例

  • ルールの量が多すぎる(数十項目のチェックを常時要求)
  • 曖昧で主観的(何がOK/NGか解釈が分かれる。質の高いものを作る。有能な社員を採用する etc…)
  • トップダウンのルール設計(使用者が納得感が無くなり、実用性に欠ける場合が多い)
  • 罰則だけ強く、動機づけや裁量がない(萎縮・形骸化)
  • 目的・指標との紐づけがない(何のためのルールか不明)

まとめ

  • ルールは複雑よりもシンプルが効果的
  • 医療・自然界・ビジネス・日常生活でも成果を上げている
  • 本当に重要なルールを 5~6以内 に絞ることが鍵
  • 仕事や生活の「迷う瞬間」にシンプルルールを導入してみよう
  • 特にプレッシャーや不安が多い状況では、冷静な判断ができないのでシンプルルールが効果を発揮する
  • ルールをシンプルにすることは複雑にすることより難しい。使いながら洗練していく。

まずは小さな一歩として、あなた自身の生活や仕事で「迷いやすい場面」を一つ選び、そこにルールを一つ決めてみてください。

冨田希望

Nozomi Tomita

エンジニア

はじめまして、冨田希望と申します。 前職はフリーターで、ほぼ未経験で入社しました。若干不安な気持ちもありますが、開発や障害修正を行う案件に携わっています。